べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

続 散歩のせい


 近所の八幡神社までの散歩、私にとっては珍しく、まだ続いているのである。
 雨の日と宿酔いの日以外は、であるが。
 うん? 「雨の日と宿酔いの日以外は」って、なんかカーペンターズの歌のタイトルみたいじゃね?
 ああ、あれは「雨の日と月曜日は」だった。全然違った。ごめんなさい。

 先日、いつものように八幡神社に行くと、社殿内でお宮参りが行われていた。
 若い夫婦と初着にくるまれた小さな赤ちゃん、そしてご両親。
 みな幸せそうである。
 すでに儀式は終わっていて、宮司と談笑したり、写真を撮ったりしている。
 私は、邪魔しないようにと、社殿の手前で足を止め、しばらく待っていた。
 するとそれに気が付いた宮司が、私を手で招いて参拝を促してきた。
「すみません。ではちょっと失礼して」頭を下げながら賽銭箱の前に立ち、ジーンズのポケットから小銭入れを取り出して、中を見る。
 と、そこで私は困惑した。
 小銭入れの中には、百円玉が四枚と、一円玉が三枚しかなかったのである。
 四百三円。
 4 3。
 シ ミ、だな。
 シミと言えば、私の右頬に大きなシミがいつの間にかできていて、最近気になってきているのであるが、そんなことは関係ない。
 どうしよう?
 一瞬の逡巡の末、私はそっと硬貨を手の中に隠し持ち、できるだけ社殿の中にいる方々には見せないようにして、それを賽銭箱の中に放り投げた。
 しかしあれだね。
 一円玉は音が軽いね。
 アルミだからかね。
 そして、宮司とお宮参りの客は、その一円玉をしっかり見ていた。
「ああ、違うんです、違うんですよ。いつもは十円とか五十円とか、たまに五円のときもありますけど、それくらいの額は入れているんです。今日はほら、たまたま百円と一円しかなかったもんですから。ね? 分かりますよね? それなら百円を入れればいいじゃないとお思いかも知れませんが、百円はなんか違うじゃないですか。百円となると、なんか、必要以上の覚悟を強いられたりするじゃないですか。それに百円だと、みなさんの前でなんか格好をつけているみたいな感じになったりするかも知れないでしょ? だからですね、恥を忍んで、一円にさせてもらったんです。他の硬貨を持っていたら迷わずそれを投げてましたよ。本当ですよ。信じてください」
 宮司と参拝客に、そんな風に申し開きしたかった。
 しかし、そんなことをしたらさらに変なひとと思われるだけだと、ものすごく我慢した。
 そして私は、参拝もそこそこに、逃げるように神社をあとにしたのである。

 ああ、もう、恥ずかしかった。
 こういった場合、どうすればいいんだろうか。