タバコのこと
タバコをやめて、もう七年ほどが経つ。
七年も経つと、さすがにもう喫煙者には戻らないだろうと思う。
吸いたいとも思わないし、タバコの煙自体が苦手になっている。
喫煙する知り合いなどにそういう話をすると、「よくやめられたな」と感心されることがあるが、私の場合、タバコをやめられたのは、自分の努力の結果ではなかった。
七年前、私は痔の手術をするために、友人の勤めるある病院に入院していた。
痔に関してはまた別の機会に詳述するが、その入院中、医者である友人が、毎晩のように私の病室にやってきては、「タバコをやめろぉ……今やめないと大変なことになるぞぉ……」と私を脅迫してきたのである。
医者だけあって、友人のタバコの害に関する話には説得力があった。
特に、喫煙者の肺の写真は衝撃的だった。
そのお陰で、手術の次の日にはすでにタバコを吸っていたほどのヘビースモーカーだった私が、一週間後の退院の日には、すっかりタバコ嫌いになっていた。
要は、洗脳されたのである。
その友人にはとても感謝している。
当の本人が未だにタバコを吸っているのは、何か納得がいかないが。
タバコをやめた人間は、元々吸っていない人間より嫌煙家になる、という話をよく耳にするが、それは当たっている。少なくとも私はそうである。
飲み屋などで、どこからかタバコの煙が漂ってくると露骨に嫌な顔をしてしまうし、そういう場所から帰ってくると、とにかく真っ先に着ていた服を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びる。
自分でもちょっと神経質過ぎるとは思うのだが、気になって仕方がないのである。
もうひとつ、タバコをやめたら太る、という話もよく聞くが、それも本当だ。
私はこの七年で七キロ太った。
太りすぎである。
七キロも太ると、服のサイズが変わるのは当然として、靴のサイズまで変わる。
びっくりである。
それに、知り合いの子どもたちに、腹をぷよぷよ触られて笑われる。
屈辱である。
なので、もういっそ、そういうさまざまなすべてのことを、タバコのせいにしてやろうと思う。
私が嫌煙家になったのも、七キロ太ったのも、すべてタバコのせいである。
夜な夜なひとりで酒を飲むのも、彼女ができないのもタバコのせいだし、仕事中についゲームをしてしまうのも、原稿がまったく進まないのもタバコのせいである。
タバコに責任を押しつけても、事態は何も好転しないが、それもタバコのせいにしてやる。