べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

映画部活動報告「スリーデイズ」鑑賞


 監督ポール・ハギス 出演ラッセル・クロウ エリザベス・バンクス など

 あらすじ

 大学教授のジョン・ブレナン(ラッセル・クロウ)は、妻とひとり息子の三人で幸せな家庭を築いていた。しかしある日、妻のララ(エリザベス・バンクス)が殺人の容疑で逮捕されてしまう。
 妻は無実を訴えるが、殺されたのが妻の上司であり、現場から立ち去る妻の姿が目撃されていたことや、凶器の消化器から妻の指紋が出たことなどから、彼女は起訴される。
 夫のジョンは、妻の無実を信じ、証拠集めや裁判の準備に奔走するが、結果、裁判に敗訴し、頼みの弁護士にもそっぽを向かれる。
 絶望の中、ジョンが決心したのは、「妻を脱獄させる」というものだった。
 ジョンは、大学教授という肩書きを利用し、刑務所から脱獄した経験のある者を探し出し、取材という名目でインタビューする。そして、そこで得た知識を基に、数年がかりで綿密な脱獄計画を立てる。
 しかし、まだ完全に準備ができていないうちに、妻が別の刑務所に収監されることを聞かされる。
 別の刑務所へ連れて行かれれば、これまで立てた計画は使えなくなる。
 妻が移送されるのは三日後。
 果たして、ジョンの脱獄計画はどうなるのか。


 感想
 
 ということで、映画部である。今回は部員の出席はなし。ていうか勢いでひとりで行ってしまったのである。
 こんなことも、ままある。

 「スリーデイズ」調べてみると、「すべて彼女のために」というフランス映画のリメイクらしい。といっても、フランス映画っぽさはまったくない。そういえば、息子の友達の母親がフランス人ぽかったかな、とも思うが、それはおそらく私の気のせいである。というより、仮に出演者のひとりがフランス人だったからといって、それが何だと言うのか。だからフランス映画っぽいとでも言うつもりだったのか。それなら「ラストサムライ」はどうなんだ。日本っぽいか? ぽくないだろう。ていうか日本のイメージっていつまで経ってもあんななのか? 何故私は「ラストサムライ」の批判をしているんだ?

 というわけで、つまり「スリーデイズ」という映画は、ハリウッドらしい、サスペンスとアクション満載の作品であった。
 しかし、安っぽい仕上がりでは決してない。
 主演のラッセル・クロウのおかげだろう。
 妻の無実を頑なに信じ、それ故に徐々に狂気へと傾いていく頑迷な男の姿を、ラッセル・クロウは見事に演じている。真犯人を探そうとせず、妻を脱獄させる方へ考えが行ってしまうという不自然さも、彼の演技力が不自然に感じさせない。
 でもやっぱり、普通なら真犯人を探す話にするよな。何で脱獄の話にしたんだろうか。
 はっ、これがフランスっぽさか?(たぶん違う)
 ひとりの普通の中年男性が犯罪者になっていく過程を描いた、いわゆるクライム・ムービーだが、だからといって、愛する者を守るためには法を犯しても良いのか? とか、法律とは、冤罪とは何か? とか、法を犯した者に本当の幸せはあるのか? とか、そういう難しいことは考えない方がいいと思う。いや考えたい人は考えてもいいんだが、それは作中で、ジョンが、あっそういう風に開き直っちゃうのね、というような明快な答えを出しちゃってるので、考える間でもないような気がする。
 私が思うに、この映画は、さまざまに散りばめられた数々の伏線が、次々と鮮やかに回収されていく快感、というのがテーマであろう。これは、そういうパズル的な快感を楽しむ映画である。
 なので、あまり多くを語れない。語るとネタバレになってしまう。
 七十年代の映画との比較、みたいなことも一瞬考えたが、それは前回「探偵はBARにいる」でやってしまった。どれだけ七十年代が好きなんだ私は。

 ということで、ひとつだけ。
 タイトルの「スリーデイズ」だが、エンドロールを見ると、原題は「ネクストスリーデイズ」だった。「いやいや、それじゃあニュアンスがかなり違うってくるぞ」と私は胸の中で呟いた。
 「ネクストスリーデイズ」直訳すると、「次の三日間」あるいは「別の三日間」である。
 つまり、タイムリミットの三日間とはまた違う三日間の意味があるのであり、それは何かと言えば……これもネタバレになりそうだから言えない。うぐぐ。
 それに、同じ時期に、サミュエル・L・ジャクソンの「4デイズ」というのも公開されていて、紛らわしい。

 いやしかし、面白かった。伏線が立て続けに回収されていく爽快感はすごい。見落としている伏線もあるだろうから、レンタルが開始されたらもう一度みたいぐらいである。
 本当はもう一回映画館に足を運んで観るのがベストなのだろうが、今回、私の後ろに座っていたおばちゃんが、途中で酢イカを食べ始めて劇場内が酸っぱい匂いに包まれたのと、同じ列の何席か向こうのおっさんが「おおっ! びっくりした!」とか「これはすごいシーンやな!」とか、独り言とは言えない大声で話していたりしてうんざりしたので、しばらく行く気になれない。
 もうその人たちとは巡り会わないだろうとは思うのだが、あの映画館に行くと、きっと酢イカの匂いを思い出してしまうだろう。
 ああいう、周りをまったく気にしない厚かましい人たちってたまにいるが、どうにかならないものかと思う今日この頃である。