べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

「ステキな金縛り」鑑賞


「ステキな金縛り」
 監督 三谷幸喜 出演 深津絵里 西田敏行 中井貴一 など

 あらすじ
 若くして亡くなった父の跡を継ぎ、弁護士となった宝生エミ(深津絵里)だが、仕事は失敗続きで、事務所のボス(阿部寛)から「次の依頼で失敗したらクビだ」と最後通牒を言い渡される。
 その依頼とは、妻を殺した罪で告訴された矢部五郎(KAN)の弁護だった。
 矢部は無罪を主張しており、自分にはアリバイがあるという。
 妻が殺された時間、とある村の寂れた旅館に泊まっていた矢部は、そこで落ち武者の幽霊に遭遇し、金縛りに遭っていたというのだ。
 早速その旅館に調査に出向いたエミは、そこで更科六兵衛と名乗る落ち武者の幽霊(西田敏行)と出会う。そこでエミは、六兵衛を証人として裁判に出廷してもらうことを思いつくのだが……。

 感想
 
 私が三谷幸喜氏のフリークであることは有名な事実である。
 どこで有名かというと、主に私の脳内で有名である。
 どれほどのフリークかといえば、映画や舞台に拘わらず、三谷氏の作品でDVD化されたものはほとんど揃えているし、それを、映画部の課外活動(という名の部員宅での飲み会)において、数回に一回の割合で部員に強制的に鑑賞させているほどである。
 そのたゆまぬ教育のお陰で、最近は部員たちも、たとえば「オケピ」という三谷氏のミュ−ジカル作品の劇中の歌を、ほんのり歌えるようになっている。
 私? 私はもちろん全曲歌える。
 教育とは、まったき洗脳である。

 本作は、そんな(どんなだ)三谷幸喜氏の五作目となる映画作品である。
 三谷氏は以前何かで、「大いに笑って、あとには何も残らない。それが最高のコメディである」というようなことを仰っていた。
 この作品は、まさしくその言葉通りの「最高のコメディ」である。
 全編が見どころであり笑いどころなのだが、やはり出色なのは、西田敏行であろう。
 彼の落ち武者姿は、反則である。もう出てきただけで笑ってしまう。
 その西田敏行と真正面から渡り合い、主役の座を一歩も譲らない深津絵里も、すごい女優である。
 ふたりは、前作「マジックアワー」で、マフィアのボスとその愛人という役柄で共演しているが、そのときと、演技がまったく違う。役者というのはそういうものだと言われればそうなのだろうが、素直に感心する。
 そのふたり以外にも、出演する俳優陣は豪華だ。「有頂天ホテル」や「マジックアワー」に出ていた俳優が、そのままの役柄でゲスト出演しているのも楽しい。

 前作「マジックアワー」までのテンションの高さはないが、ほどよく肩の力が抜け、楽しんで作られている感じがこちらにも伝わってきて、それが心地よく、安心する。
 二時間半という長い作品だが、それを感じさせない。
 ただひたすら笑い、少しほろりと胸を打たれ、「ああ面白かった」と最後に満足のため息が出る。
 この作品は、そんな素晴らしい映画である。
 とここまで書いて読み返すと、私の、三谷幸喜氏への愛が溢れすぎていて気持ち悪いことなっていると気が付いた。しかし書き直さない。決して面倒くさいからではない。書き直したところで、同じような文章になるのは目に見えているからである。好きなものについて書くときに、公平性とか客観性とかを保って書くというのは、どだい無理な話なのである。少なくともこの作品については無理なのである。決して面倒くさいからという訳ではないのである。決して違うのである。

 とまれ、ナンセンスやメタやシュールなどと、「分かるやつには分かる」という笑いが横行する中で、堂々たる「王道のコメディ」を見せつけられ、私は胸がすくような気持ちになった。

 これからも三谷幸喜のフリークであり続けようと決心させるには充分な作品であった。