夜歩く
最近、ダイエットと気分転換を兼ねて、夜歩いている。
といっても、ウォーキングといえるような本格的なものではない。
ぼんやりしながらだらだら歩いているだけなので、徘徊、に近いだろうか。
もともと、速く歩けないのである。
足を前にぶらぶら投げ出して歩いているせいかもしれない。
キリンの歩く姿に似ているような気がする。
そんなだらけた歩き方はしていないと、キリンに怒られるだろうか。
かかとから地面に着地するので、以前、かかと腱鞘炎というものを患ったこともある。
かかとも腱鞘炎になるのである。
びっくりである。
歩くのを控えたら自然と治ったので、私の体はもともと怠けるようにできているのである。
そのかかと腱鞘炎の再発を恐れているため、なおさらウォーキングのような徘徊、もとい、徘徊のようなウォ−キング、にならざるを得ないのだ。
とはいえ、数日前、前方を歩く七十過ぎに見える腰の曲がった老婆を、いつまで経っても追い越せなかったときは、我ながらちょっと情けなかった。しょんぼりした。こんな辱めを受けるくらいならもう歩いてなんかやらない、とか思ったが、考えてみればそれは自分のせいだった。
夜とはいっても、さして深くない時間に歩いているので、おそらく部活終わりの帰宅途中なのであろう学生たちと、度々すれ違う。
問題なのは、その学生たちの中に、私とすれ違うとき、「こんばんは」と挨拶をしてくる者がいることである。
挨拶をしてもらえるのはとても嬉しいのだが、前述の通り、私はぼんやりしながらだらだら歩いているので、不意に声をかけられると、ものすごくびっくりする。
「えっ、あっ、はいっ、どうも」みたいな感じになる。
しかも、向こうは自転車に乗っていることが多いので、私が慌てて挨拶を返すときには、すでに後方に遠く去ってしまっているのである。
誰もいない空間に、キョドりながらぺこぺこ頭を下げてる姿は、遠目から見ればかなり怪しいであろう。
ただでさえ、不審な出で立ちをしている、と周りからよく言われる。
不審な出で立ちをした者が、不審な動きをしていたら、それは本当に不審者である。
いつか捕まるかも知れない。
そうなったら、罪状は、挨拶していた、になるのだろうか。
こちらから先に挨拶をすればよいのではないかと考えたこともある。 しかし、学生も全員が全員挨拶をしてくるわけではない。
見知らぬ不審なおっさんが突然声をかけてきたら、それはそれで怖がられるのではないかと思うと、そうおいそれとこちらから声をかけることもできない。
だがやはり、挨拶をしてくれたひとには、ちゃんと挨拶を返したいのである。
「あのおっさん、無視しやがった」とか思われるのは不本意なのである。
「違うんだよ! 本当は私も挨拶を返したいんだよ! 嘘じゃないよ! 本当だよ!」と自転車に取りすがって訴えたいのである。
それをしてしまうと本当に捕まるだろうからしないだけなのである。
挨拶は嬉しい。
だが、学生に言いたい。
どうか、徘徊のようなウォ−キング、あれ? ウォ−キングのような徘徊、ややこしいなどちらでもよいか、をしているおっさんを見かけたときは、ちょっと早めに声をかけて欲しい。
「こんばんは」とおっさんも返事をしたのだ。
それだけなのだ。