べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

「マネーボール」鑑賞


マネーボール
 監督 ベネット・ミラー  出演 ブラッド・ピット ジョナ・ヒル など

 あらすじ

 プロ野球チーム、アスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンブラッド・ピット)は、オーナーからの低予算での球団運営の指示や、他球団からのスター選手の引き抜きなど、散々なことが重なり、完全に行き詰まっていた。
 そんな中、ビリーはある球団の幹部のところへ、選手のトレードの交渉をするために向かう。交渉は決裂するが、そこでビリーは、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)というアシスタントと出会う。彼は独自のデータ分析の手法を持っており、現在の選手の評価基準は間違っていると豪語する人物だった。
 ビリーはピーターを引き抜き、彼の分析に基づいて、チームの選手を一新させる。
 彼らが集めたのは、年齢的にピークを過ぎたロートルや、故障をして契約を切られた者、ギャンブル好きであまり品行方正ではない者など、お世辞にも一流とは呼べない選手ばかりだった。
 当然、ビリーとピーターは、スカウトマンや監督からさえ反発を受け、球団内の空気は悪くなっていく。
 試合でもチームは負け続け、ビリーはマスコミやファンからも叩かれ始める。
 そんな中、ビリーとピーターは、粘り強く周囲を説得し、自分たちの作り上げた『マネーボール理論』の正しさを証明しようとする。
 ふたりの揺るぎない信念は、徐々にチーム内に浸透し始め、それに伴って、チームにも勝ち星が増え始める。
 そしてついに、チームに思ってもいなかった奇跡がもたらされる。


 感想

 このところ映画部は、たとえば○ーナーや○ーホーシネマズなどといった、いわゆるシネコンと呼ばれる大型の劇場ではなく、昔からあるような、ひなびた(失礼)寂れた(失礼)古びた(失礼)、伝統と格式のある(正解)、町中の小さな劇場に通っている。
 そういった劇場の方が、かえってマナーの良い客が多い、ような気がする、ということに気が付いたからである。
 今回も、そういう小さな劇場に足を運んだ。劇場は、当然のごとく自由席で、スクリーンは小さいわ音響は悪いわ、座席のスペースが狭いわ前のひとの頭が気になるわ、というところだった。
 まあそういう不便さがまた楽しく、気に入っているのだが、不思議とそういった環境の方が、迷惑な客に出くわさないのである。おそらく、客同士の間で、これ以上不快な思いを味わいたくない、という共通認識が発生し、必要以上にマナーをきちんと守ろうという意識が高まるからであろうと思う。
 そしてその結果、劇場内に、妙な一体感が生まれるのである。
 しかしこれって劇場を誉めているか? いや誉めていない。(反語)

 というわけで、「マネーボール」である。
 野球を題材にした映画で、実話をもとにしているらしい。
 しかし私は、野球をほとんど知らない。
 テレビの野球中継を見ていて、フライの打球を外野手が捕ったと思ったら塁にいた選手が走ったので、「うわ、走っちゃったよ馬鹿だな」と笑ったところ「あれはタッチアップと言ってああいうプレーなのだ」と、あんたの方が馬鹿だ、というような目をした弟から指摘されたのが確か数年前のことなので、つまり私は、野球をそれくらい知らないのである。
 そんな私でも、この映画は面白かった。
 それは、この映画が野球に偏らず、しっかりとした人間ドラマとして作られているからだろう。
 ビリーは、弱いチームを何とかして立て直したいという思いから、やや暴走気味に球団を変革していく。そのおかげでチームもどんどんいい方向に変わっていき、周囲の目も変わっていくのだが、その過程で、他の誰よりも変わったのが、実はこのビリー本人だった。
「情が移るから選手とは関わらない」とか「私の考えを選手に伝える必要がどこにある?」などと言っていたビリーが、途中から、積極的に選手に交わり、叱咤激励し、プレーのアドバイスまでし始める。
 チームが勝ち星を得るようになったのは、『マネーボール理論』が当たったからであることももちろんだろうが、それ以上に、球団と選手との間に、固い信頼が生まれたからではないだろうか。
 そしてそんなビリーを見て、若いピーターもまた変わっていく。
 彼らの小さな変化が、やがて大きな潮流となり、時代を動かす原動力にまでなっていくのである。

 それにしても、やはりブラッド・ピットはすごい。尊大で皮肉屋だが、反面誰よりも熱い男、ビリー。そんな難しい役を、彼は見事に演じている。しかし、年々下唇がぶりっと出てきているように見えるのは何故だろうか。昔はそんなことはなかったように思うのだが。
 そして、そんなブラッド・ピットを飲むほどの存在感を出していたのが、ピーターを演じるジョナ・ヒルである。寡聞にして彼のことは知らなかったので、少し調べてみた。どうやら彼は、アメリカでは有名なコメディアンらしい。数年前から映画にも出始めて、今では実力派俳優とまで呼ばれるようになっている人物、とのことである。
 ちなみに彼の出演作品は、『40歳の童貞男』『無ケーカクの命中男 ノックトアップ』『スーパーバッド 童貞ウォーズ
 タイトルを見る限り、下ネタばかりである。
 アメリカ、いやハリウッドの懐の深さには感じ入ってしまう。
 ちなみを重ねるが、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』は日本では未公開らしい。公開されても果たして観るだろうか? いや観ない。(反語)

 とまれ、この「マネーボール」という作品は、しっかりとした実力派の俳優たちによる、しっかりとした作りの、「大人の」映画だった。だから、カップルでちゃらちゃら観にきてんじゃねえぞ前の席のやつ。頭を引っ付けていちゃいちゃしてんのが後ろからでも見えるんだよチクショウ。その頭にコーラぶっかけてやろうか、あっジンジャーエールだった、ってそういう問題じゃねえ。
 というようなことは、あえて部員にも伝えず、ひっそりと胸の中だけで処理した。
 私も大人である。
 誰かほめてください。