散々な日
ある夜、急に、本屋に行こう、と思い立つ。
今まで行きつけにしていた書店が潰れてしまい、新しい店を開拓せねばと常々思っていたのだが、その思いが唐突に膨れ上がったのである。
早速、ネットで近くの大型書店を検索する。
自宅から一時間ほどの、姫路市に一軒あることが分かる。
時計を見る。20時。到着は21時を回るだろう。
しかし姫路はここよりずっと都会だ。本屋もきっと遅くまで開いているに違いない、と算段し、思い切って向かう。
到着する。
閉まっている。
なんだよう、もう、閉まってるよー、ていうか、せっかくネットで調べたんだから、閉店時間も確認しておけよ俺、馬鹿か俺、早とちりの自己中野郎か俺ー。
と散々自分を罵りながら車に戻る。
しかし、せっかく姫路にきたのだからと、とある洋食屋に向かう。
今まで何度か行ったことのある、お気に入りの店である。
本屋に寄れなかったのは残念だが、そこの料理を食べればプラスマイナスゼロだ。いや、プラスに傾くかもしれないぞ、と期待に胸を膨らませつつ移動する。
閉まっている。
ちくしょう、ちくしょう、俺の馬鹿、そうだよ、この店は閉店が早いんだよ、それくらい覚えておけよ俺、馬鹿か俺、早とちりの自己中野郎か俺ー。
期待が大きかった分、失望もまた大きい。
肩を落とし、空腹を抱えたまま帰路へつく。
どこでもいいから腹を満たしたいと思い、目についたラーメン屋に飛び込む。
あんまりおいしくない。
期待はしていなかったが、運の悪いという状態が自分の通常の状態になったような気がして、さらにへこむ。
せめて好きな歌でも聴きながら帰ろう、とipodを探すが、ない。
慌てて出てきたため、持ってくるのを忘れていたらしい。
車中にあった、さだまさしのCDを聞きながら帰る。泣きたくなる。
なんとか自宅の駐車場に到着する。
ナビが「お疲れさまでした」と告げてくれる。
「お疲れさま」と答える。
ただの機械の自動音声に、意外と心が慰められていることに気付き、また泣きそうになる。
車から降りようとする。が、降りられない。
ドアを開け、足を車外に出そうとするのだが、腰が浮かせられないのである。
なんでだ!? どうしたんだ!?
軽くパニックになる。
立ち上がろうと、何度も何度も同じ動作を繰り返す。
そのあいだに、ふと気付く。
シートベルトをしたままだった。
「はああっ……」
大きなため息を漏らしつつ、がっくりと項垂れる。
頭がハンドルに当たる。
ぱふっ、とクラクションが、私を馬鹿にするような、中途半端な情けない音を出す。
もう、私は、色々ダメかもしれない。