べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

詣で部活動報告 その二

 そもそも、この日は姫路の映画館に行く予定だった。
 なので、とりあえず姫路に行き、その近くにある神社に参ろうという話になった。
 その方が、西脇の神社を巡るより時間が読めるだろうと判断したのだ。
 そこで私は、はたと思い出した。
 姫路に、「元八坂」と呼ばれる神社があるというのを聞いたことがあったのだ。
 元八坂の八坂とは京都の八坂神社、つまり祇園さんのことである。
 祇園さんは牛頭天王総本宮であるが、姫路の「元八坂」は、それ以前から牛頭天王を祀っていたとし、こちらの方が牛頭天王総本宮である、と主張している神社なのである。
 まるでラーメン屋の「本家」と「元祖」の闘いのようだが、(そうか?)何にせよ、あの八坂神社と正面切って争っているというのが面白いと、印象に残っていた神社だった。
 しかし、その存在は覚えていたが、名前が出てこない。
 部員であるK夫人に調べてもらう。(こういうときスマートフォンは便利である。が、私は持っていないのである)
 すると、それが「広峯神社」という名前であることが分かる。
 まだまだ時間はたっぷりあると、その広峯神社に向かうことになった。
 だが、これが甘かった。
 広峯神社は広峰山という山の頂にあり、そこに辿り着くには、やたらカーブの多い、細い山道をぐねぐねと登らねばならず、さらには鳥居の手前で車を置き、そこからは急な坂道の参道を十分ほどかけて歩かねばならなかったのだ。
 

広峯神社


広峯神社 拝殿を正面から

 そうしてようやく辿り着いた広峯神社は、八坂神社と真っ向勝負しているだけあって、かなり堂々とした、迫力のあるお社であった。
 吉備神社、山王権現、天神社など、摂末社の数も十を超え、格式の高さが窺える。
 が、「元八坂」というネーミングの時点で、すでに八坂神社には負けているような気がしないでもない。「元牛頭」とかなら分かるのだが。
 本殿の真裏が面白い。
 その壁面には九個の穴(というよりくぼみ)が設けられており、それぞれに、一白水星や、二黒土星など、いわゆる九星が割り振られてある。
「神秘なる九つ穴」という看板が掲げられたその場所は、どうやら、自分の星の穴に向かって願い事を書いた紙を入れる、もしくは願い事を小声で囁くと、その誓願が成就する、というものらしい。
 早速やってみようとするが、穴の向こうがすぐに板で遮られていて、何だか今ひとつありがたみが湧いてこなかったため、やめてしまった。バチが当たりそうである。
 しかしそのような仕掛けがあるということは、陰陽道の影響なのだろうか。
 その辺りを考えると興味深いものがある。


神秘なる九つ穴

 境内を散策していると、犬がいた。神社の飼い犬らしい。
 写真を撮ろうとカメラを向けると、「撫でてくれ」と言わんばかりに近づいてきた。
 人懐っこくてかわいい。思わず撫で撫でしながら写真を撮る。


広峯神社の犬

 広峯神社を堪能していて、はたと気が付く。
 映画の上映時間に間に合わなくなっているのではないか。
 時計を見ると、あと三十分を切っている。
 慌てて踵を返し、急な坂道の参道を下り、車に乗り込む。
 しかしその時点で、すでに残り十五分ほどになっている。
「どうする?」
「どうしよう?」
 車で山道を下りながら相談する。
「今日は映画はやめて、詣で部に絞るか」
 そう提案したのは、映画部の仮入部員であるK氏だった。
ドラゴンタトゥーの女」にあまり興味がなかったのか、それとも、仮入部の映画部より正部員の詣で部の活動の方が良かったのだろうか。
 彼の心中は分からないが、我々はその提案に乗った。
 正直、「今から映画観ても、疲れてるから寝ちゃいそう」と思ったりもしていたのである。
 何というか、計画性がまるでない。ぐだぐだである。

 で、こうなったらもう一社参拝しようじゃないか、ということになり、そこでまた私は閃いた。
 姫路で神社仏閣といえば、あそこしかない。
 私は勇んでその寺の名を口にした。
「しょさじゃん、あれ、そしゃざん、違う、しょしゃじゃん、じゃんじゃない、しょーしゃーざーん、言えた、そさざん(最初に戻る)」
 書写山
 そこは、あの渡辺謙のハリウッド進出で話題になった「ラストサムライ」の舞台として使われた場所なのである。(未だにうまく言えない)

 このとき私は、自分の閃きに大いに満足していた。
 まさかそれが、自分にとどめを刺す地獄の行程になろうとは、夢にも思わなかったのである。

 続く。