べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

「ももへの手紙」鑑賞


「ももへの手紙」
 監督 沖浦啓之  声優 美山加恋 優香 西田敏行 など

 あらすじ
 小学校6年生の宮浦ももは、父を事故で亡くしたことをきっかけに、母の祖父母が住む瀬戸内海の汐島に移住する。しかしももは、田舎の生活になかなかなじめず、せっかく出会った同級生らの輪の中にも入れないまま、母が帰ってくるのを家でひとりで待つという日々を送る。そんな中、ももは家の中に妙な気配があることに気付く。その気配の正体は、三匹の妖怪だった。名前を、イワ、カワ、タネというその三匹の妖怪たちは、ももの家に住み着きたいという。最初は嫌がっていたももだが、言うことを聞かない妖怪たちに根負けし、一緒に住むことを承諾する。しかし、妖怪には人間の常識が通用しなかった。彼らは畑から野菜を勝手に取っては食べたり、他人の家から小物を盗んできたりするのである。その度に怒るももだが、妖怪たちは一向に耳を貸さない。
 そんなある日、ももはささいなことから母親と喧嘩をし、家出をする。折しも台風が近づいている。母はももの身を案じて町中を探し回るが、その途次に持病のぜんそくで倒れる。村人から母の窮状を聞かされたももは、慌てて家に戻る。台風のため医者を呼ぶことができないらしい。ももは、それなら私が海峡大橋を渡って医者を連れてくると家を飛び出るが……。

 感想
 久々の部員揃っての映画部である。
 そして久々のアニメである。
「ももへの手紙」というこの作品、田舎の風景やのんびりとした空気感は、とてもよく描かれている。
 橋の上から川に飛び込む遊びをしている子どもたち、段々畑、木造の古い家、狭い路地、小さな神社、どの景色もどこか懐かしく、ほのぼのしている。たぶん、そのゆったりとした雰囲気を描き出したかったのだろうなとは思う。
 しかし、そののどかな感じと、妖怪がらみで起きるできごととが、どうにもうまく噛み合っていないような気がする。
 子どもにしか見えない妖怪、という設定で言えば、真っ先に思い出されるのはジブリの「となりのトトロ」であろう。その「トトロ」では、子どもたちが妖怪(というより妖精か?)と巻き起こすできごとは、周囲の大人からすると、ちょっと不思議だけどまあいいか、というぐらいのものだった。大事件にならないよう、不思議さ加減が絶妙に抑制されているのである。
 ところが、この「ももへの手紙」では、妖怪たちの言動が、あまりに現実に影響を及ぼし過ぎている。あらすじにも書いたが、妖怪たちが畑の野菜を盗み食いをしたり、他人の小物や服を盗んだりというのは、いくら人間の常識が通用しないとはいえ、やらせてはいけないことなのではないだろうか。もしそれが見つかったら、ももが犯人扱いされて、吊し上げられたり村八分にされたりするのではないか。実際、作中で母と喧嘩になるのも、妖怪たちが盗ってきた物を母に見つけられたことが原因なのである。そして、妖怪のせいだと言っても信じてもらえず、ももが怒って家を飛び出すところからクライマックスへと繋がるのだが、その後、妖怪たちがももの家を去る段になって、彼らはその盗品を持って帰っちゃうのである。なんだそりゃ、と思う。盗まれたひとの気持ちはどうなるんだ?

「序盤に出てきた拳銃は、終盤で必ず使われる」という言葉がある。これは、伏線はきちんと回収されなければならないということを言い表したものだが、残念ながら、この作品は回収されない伏線が多すぎるように見受けられる。先に書いた盗品のこともそうなのだが、他にも、妖怪たちが壊した数々の物はその後どうなったのか、とか、同級生の妹に妖怪が見える子がいるのだが、その子がまったく生かし切れていないだろ、とか、妖怪たちの力を借りて病気の母を助けたのはいいが、そのシーンを思い切りすっ飛ばすんじゃねえ、とか、ちょっとご都合主義にもほどがある、という感じがする。
 伏線の回収が雑な割に、蛇足めいたシーンがだらだらと長いのも気になった。
「ももへの手紙」というタイトルは、生前ももの父親が、ももへ宛てて書こうとして書けず、「ももへ」とだけ書かれた状態で残されていた便せんのことで、それをももは大切な宝物として取っていて、ときおり眺めては、父は何を書こうとしていたのだろうと思いを巡らせるのであるが、だから、もうその手紙のくだりは、それで充分である。それ以上引っ張らなくてよろしい。くどくなるだけである。しかしこの作品は、そのくどくなることを全部やってしまうのである。お腹いっぱいである。食傷気味になるのである。胸焼けを起こすのである。
 だがそのシーンで、隣に座るK部員は嗚咽を漏らしていた。よもやここで泣くとはのう、麻呂はもううんざりでおじゃるが、感動する部分はまことひとそれぞれでおじゃるのう、と感慨深く思ったのは内緒である。

 映画部では、帰路車中で作品の感想を言い合うのが恒例となっており、私たちは上記のようなことをだらだらと脈絡もなく話していたのだが、そんな中、K夫人がぽつりと漏らしたひと言に私は戦慄を禁じ得なかった。
「どこかで見たことのある話をつぎはぎさせただけのように思えた」
 K夫人はそう言い、深いため息を吐いたのである。
 その言葉に、私は恐慌状態に陥った。
 仮にも、私は作家の端くれの爪の先のアカを煎じて十倍ほどに薄めたような者である。
 その言葉の恐ろしさは理解していただけるかと思う。
 槍で胸をひと突きにされたような感覚。
 ――そんな風に言われる作品だけは書いちゃいかんな。
 ――いやもう言われてるか? 言われているのか? 言われてるのかあああ! ああああ! ひいい! やめてえええ!
 ひとり焦って動悸が激しくなった。事故らなくてよかった。
 ええと、すみません。
 精進します。
 ですので、みなさまにおかれましては、これに懲りず、今後ともよろしくお願い申し上げます。
 どうか、なにとぞ、見捨てないでやってください。