べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

兵主神社&春日神社


 ずいぶん前に、何かの用事のついでに「詣で部」の活動を何度かしていたのだが、うっかりUPするのを忘れていたので、ここでまとめておくことにする。

 まずひとつめは、黒田庄町兵主神社である。

茅葺き屋根も立派な、趣のある兵主神社
 
 兵主神社は、式内社延喜式に記載がある神社)であり、市内でも一二を争う名社である。
 祭神は、大己貴命(おおなむちのみこと)、八千戈命(やちほこのみこと)、葦原醜男(あしわらしこを)、大物主命(おおものぬしのみこと)、清之湯山主三名狹漏彦八嶋篠命(すがのゆやまのぬしみなはさるひこやしましののみこと、と読むらしい。とても覚えられない名である)。
 大己貴命、八千戈命、葦原醜男、大物主命の四柱は大国主の別名であり、最後の清之湯山主三名狹漏彦八嶋篠命は、素戔嗚尊櫛名田比売の息子だそうである。
 何でも、藤原氏に繋がる岡本修理太夫なる人物が、播磨の国衙に赴任した際に勧請した社であるということで、兵主、とはその名の通り兵(軍隊)の守護を司る神であり、祭神に八千戈命を祀っているところからも、鍛冶屋神(武器製造の神様)と考えられているようである。
 が、周囲は見渡す限りのどかな田園風景が広がっており、すぐ斜め前には小学校まである。このような場所に、何故そんな物騒な神社があるのか。謎である。
 それから、祭神である大己貴命といえば奈良の三輪山にある大神神社で、そこは日本でも最古であろうとされる神社だが、その基本的な形態は、山を本殿として祀る、というものである。
 だがこの兵主神社は平地に建てられており、拝殿から本殿を望む方角にも山がない。
 何だろう。片手落ちというか、何か物足りない。
 大国主命という、国津神天孫降臨以前にいた土着の神様)のトップを祀っている割に、謎な神社である。

 兵主神社を詣った数週間後、今度は小坂町にある春日神社に足を運んだ。
 

小坂町春日神社。道沿いにあるのだが、ぐるっと回り込まないと車では入れない

 兵主神社と同じく、春日神社も式内社である。
 祭神は、武甕槌命(たけみかづちのみこと)、経津主命(ふつぬしのかみ)、天児屋根命(あめのこやねのみこと)、比売神(ひめがみ)、の四柱。
 武甕槌命は、国譲りの際、天津神天照大神を筆頭とする高天原の神)の代表として、国津神の代表である建御名方(たけみなかた)と勝負して勝った神様である。つまり、闘いの神様だ。
 続く経津主命の神は、武甕槌命とともに国譲りに拘わった神様で、刀剣を守護するとされる。フツ、というのは、刀が物を切り落とす際の音であるらしい。
 天児屋根命は、天照大神が岩戸に隠れたとき、外の祭りが気になってちょろっと岩戸をあけた天照大神にすかさず鏡を差し出した神様で、託宣の神とか、出世の神とされる。比売神はこの天児屋根命の妻である。
 この神社も、先の兵主神社と同じく、藤原氏が祀った神社であり、闘いの神様である。
 兵主神社では国津神、こちらでは天津神と、藤原氏もなかなか節操がなかったと見受けられる。
 まあ、イザナギイザナミまで遡ればどちらも同じ系統の神様ではあるのだが……。

 しかしこの小坂町春日神社は、造りはなかなか立派ではあるものの、かなり不案内である。
 縁起が記された看板もなければ、手水場も、ひょっとしてこれか? という簡易なものしかない。
 とりあえず、賽銭箱に小銭を入れて柏手を打ってはみるが、なーんだかな、という気持ちになる。
 何が、なーんだかな、かは自分でも分からないのだが、何かしっくりこないのだから仕方がない。
 そんな歯切れの悪い私に、K部員が「高田井町に、もうひとつ春日神社があったのではなかったべか?」と言ってきた。
 そう言えば、あった気がすんべ。んなら行ってみんべか。んだんだ。
 ということで、高田井町の春日神社へ。


 

同じ春日神社でも、こちらはかなり風格がある

 我らが到着したとき、境内横の駐車場には、車が一台駐まっていた。
 物好きな参拝客かと思って見ると、車内には、つまらなそうに携帯を眺める男性の姿があった。
 どうやら参拝客ではなさそうである。
 仕事をサボって休憩しているのか、とも思ったが、我らが訪れたのは日曜日の午後五時過ぎである。その可能性は低い。となると、デートの待ち合わせだろうか。いや、それにしてはどこかやさぐれているぞ。大丈夫か兄ちゃん。
 と、見も知らぬ男性の身を案じつつ境内へ足を踏み入れる。
 手前には大きな四阿と土俵があり、その奥の階段を上った先に拝殿がある。
 いつものように柏手を打って願い事をしてからぐるりと周囲を散策する。
 狛犬が苔むしていて風情がある。
 

 つか、これ狛犬か? 何か別のものじゃねえの? 足で何かを踏みつけているんじゃね? いや、子どもを守っているのか?
 と、興味が湧いて注意深く見てみるが、いかんせん知識も見る目もなく、よく分からない。

 ひと通り見終えて車に戻ると、さっきの男性がまだいた。
 相変わらず、つまらなそうに携帯を眺めている。
 さきほどよりも若干顔色が悪く、やつれているようにも見える。
 振られたのだろうか? ドタキャンか? 待ちぼうけか? はっはっ、ざまあみろ。
 かわいそうに。あなたにも春日神社の神様の御利益があらんことを、と心根の優しい私はそう願わずにはいられなかった。
 というより、そもそもドタキャンしてくる相手がいない私は幸せである、と必死に思い込もうとさえしてしまう私に、どうか神様、なにとぞ御利益を。