べっちょない日々

作家の末席を汚しつつ、しぶとく居座る浅田靖丸のブログ

「鍵泥棒のメソッド」鑑賞


鍵泥棒のメソッド
 監督 内田けんじ 出演 堺雅人 香川照之 広末涼子 など

 あらすじ
 売れない役者、桜井武史(堺雅人)は、たまたま訪れた銭湯で、金持ちそうな男(香川照之)が転倒し、気を失うという事件に遭遇する。騒然とする銭湯のどさくさに紛れて、桜井は男と自分のロッカーの鍵をすり替え、男の振りをして銭湯を去る。男の財布には現金がたんまり詰まっていた。桜井はその金を使って、溜まっていた借金を支払い、服を買い、ついには男のマンションにまで上がり込む。
 一方、風呂場で気を失っていた男は、記憶喪失になっていた。搬送された病院で、持ち物から自分を桜井武史だと思い込んだ男は、とにかく桜井のアパートに帰ろうとする。そこで男は偶然、入院中の父親の見舞いにきていた水嶋香苗(広末涼子)という女に出会う。男が記憶喪失であることを知った香苗は、彼が気がかりになり、何かと世話を焼く。
 その頃、男になりすました桜井に、一本の電話が入る。
 電話は殺人の依頼だった。男は殺し屋だったのだ。
 引っ込みがつかなくなり、桜井はその依頼を受ける。しかし殺人などとてもできない。
 そこで桜井は、ターゲットの女に接触し、彼女をこっそり逃がそうと画策するが……。

 感想
 内田けんじ監督の新作である。前作の「アフタースクール」で内田監督に惚れ込んだ私は、彼のデビュー作「WEEKEND BLUES」と第二作「運命じゃない人」も速攻で購入し、もう何度も観ている。
 今作も、内田監督が得意とする、コメディタッチの推理物である。
 内田監督のストーリーテリングには以前から目を瞠るものがあったが、それにますます磨きがかかっている。
 登場人物のそれぞれの思惑が複雑に絡み合い、思いもよらない意外な展開へと雪崩れ込み、どんでん返しが何度も繰り返された末に、予想外だがすべての謎が鮮やかに解かれる結末へと導かれる。
 やたら面白い。
 文句なし! というより、面白すぎるだろと文句を付けたくなるくらい面白い。
 ただ、これを観に行ったとき私は、風邪を引いていた。
 すでに治りかけていたとはいえ、完調ではなかった。
 故に、少し頭がぼうっとしていて、集中が欠けていた。
 頭がぼうっとしているのはいつものことだから問題ないではないかって言われればそりゃそうだなって納得しそうになってしまうではないかこの野郎。
 なので、何か伏線をいくつか見逃しているような気がして、ちょっともったいない感じがする。
 もう一度観たい。
 が、この素晴らしい作品が、上映されている劇場が少ないのである。
 調べてみると、兵庫県内で上映されているのは四つだけである。
 何故だ?
 知名度か?
 知名度のない苦しみは、私にも痛いほどわかるぞ(号泣)
 わかる! あなたの苦しみは私の苦しみだ。あなたの痛みは私の痛みだ!(きつく抱きしめる)
 ちくしょう! 資本主義の馬鹿野郎! 世の中の馬鹿野郎! 本を買ってくれ! いや買ってくださいお願いします!
 こうなったら、あの夕日に向かってダッシュだ!

 ……すまない。何かが少し分からなくなった。上映館が少ないという話だったな。
 何故だろうな。ひょっとしてあれか? 「るろうに剣心」か? こいつが予想外のヒットになっているせいか?
 これにも香川照之が出てるぞ。出過ぎだろう。歌舞伎への入門も許されたんだから、少しはおとなしくしなさいよ。あ、いや、「鍵泥棒のメソッド」はあなたじゃなければダメでしたよ。あなたの演技力は、やはり素晴らしいです。当代随一のバイプレイヤーと賞賛されるだけのことはありますよね。ただ、やっぱりちょっといろんな作品に出過ぎなんじゃないでしょうかねと言いたいだけなんですよ親分。もうちょっとこう、箔を付けるというか、仕事を選ばれてもですね、ええ、いや「あしたのジョー」の丹下段平役は素晴らしかったですよ。あの役をできるのは旦那しかいやしませんぜ。しかしですね、今年だけでも、上の二作の他に「ひみつのアッコちゃん」から「夢売るふたり」、それに「任侠ヘルパー」にまで出るとあっちゃあ、さすがにやり過ぎなんじゃあありやせんか? だいたい、「ひみつのアッコちゃん」とか「任侠ヘルパー」って何すか? 何でも映画にすりゃあいいってもんでもねえでしょう。ねえ旦那、そう思いませんか? 思いませんか。そりゃ失礼。しかし、何観ても旦那の顔が出てくるとなれば、観る方も食傷気味になるってなもんで。いやいやこりゃ差し出口を申しました。忘れてください。へへっ、すいやせんねえどうも。

 ストーリーを書くとネタ晴らしになりそうなので、なんとか違う話をしようとした結果、このザマである。
 ああ、内田監督の才能の欠片だけでも譲って欲しい。